TARP POLEを作ることになったきっかけは?
“人と人との繋がり”というのがTARPtoTARPのコンセプト。これまでにもその繋がりから様々な取り組みをしてきましたが、いつかは屋号としても使っている“TARP”をオリジナルで作りたいという想いがありました。ある時、お客様としてTARPtoTARPに来てくれていた、アルミ総合メーカー“UACJ”の星野さんから、「アルミを使って何か一緒にできませんか?」というお話をいただき、それならオリジナルタープへの第一歩としてタープポールを作ろう、となったのがきっかけです。ポールには、デザイン性だけでなく、構造や強度など専門性が求められるので、以前から親交が深いプロダクトデザイナーの川浪さんに相談して、デザインをお願いすることになりました。
僕は今回デザイナーとして関わっていますが、その前に一人のユーザーの視点から言うと、タープ自体は素材や形状・機能など様々な選択肢があるのに対して、タープポールはどこか脇役という位置づけで、デザイン・クオリティ共に満足いくものがなくて。
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限られた選択肢の中から、自分自身どこか妥協してポールを選び、使っていた面もあったんですよね。須山さんからお話を聞いた時に、それなら良い機会なので自分自身納得して使うことができる“最後の1セット”となるタープポールを作ってみよう、と。
そうですね。オリジナルで作るなら、既に市場にあるものと似たようなものを作っても面白くないので、とことんこだわって、感度が高いTARPtoTARPのファンの方にも満足してもらえるクオリティのものを作りたい、というのはありました。
あと、せっかく関わらせてもらうなら、アウトドア用品のものづくりの常識から一度離れて、これまで培ってきたプロダクトデザインの美意識や技術を注ぎ込み、キャンプをやらない人が見ても、プロダクトそのものとして素晴らしい思ってもらえるレベルを目指したいなと。またUACJさんとのプロジェクトなので、なによりも素材としてのアルミニウムの魅力を最大限に引き出せるようなデザインが必要だと思いました。
具体的にはどのようなポールですか?
僕は普段から長さの調節ができて多用途に使えるアジャスタブル・ポールを使っていたのですが、自分が納得できるクオリティのものが市場には無いと感じていたので、オリジナルで作るならそれしかないな、と。
アジャスタブル・ポールの場合、本体はアルミが主流ですが、必要なパーツの一部には生産性とコストの都合でプラスチックのパーツが使われることが多いんですよね。だけど、決定的な1本を作って、長く使い続けることを考えた時、アルミの本体は傷も含めて美しく変化していくのに、プラスチックは最初がピークであとは劣化していくばかり。なので、ものづくりとしてはチャレンジングにはなるけども、オール・アルミでアジャスタブル・ポールを作る方向で進めました。
アジャスタブル・ポールであれば、ワンポールテントやシェルターなどタープ以外のポールとしても流用可能なので、必然的にポールの本数を少なくでき、物を減らして快適なキャンプスタイルにできる、というメリットもありますよね。
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たしかに。強度面から言うと、5mを超えるような大型のタープを使う時に、既存のアルミポールではやや不安があって、僕はこれまでスチールのものを使っていました。だけどスチールは重いし錆びるし、なによりそのためにまた余分にポールを持たなければいけないのも合理的ではない。なのでアルミで、しかもアジャスタブルでありながらヘビーな状況にも対応できる剛性があり、1セットで全てをまかなえるものにしたかったんですよね。
具体的にどのようなところに拘って作られているんでしょうか?
道具として長く愛用することを考えた時、デザインは普遍的でシンプルなほどいい。しかしアジャスタブルな機構を持たせつつ本当にシンプルなデザインをやり切るのは実はかなり難しい。シンプルであるからこそ、ちょっとしたでっぱりや、固定するための小さなネジの露出などが、美しく仕上げられた本体をすぐに台無しにしてしまうのです。そのため、ぱっと見は普通のポールに見えるかもしれませんが、最終的なプロダクトでは気にならないような部分で、細部のディティールを徹底的に検討し尽くしています。
完全に納得いくものを作るために、生産性やコストは一旦度外視。川浪さんのクオリティに対する意識にただならぬ気配を感じたUACJ子会社のコーディネーターさんにより、ある国家プロジェクトにも携わった東京都墨田区の凄腕の職人さんが招集され、プロジェクトチームが結成されましたね(笑)。
詳しくは「機能について」のところで書いていますが、例えばポール同士を接合する部分のパーツは、ねじ式の連結だと、構造上表面にネジを出さないとしっかりと固定できません。しかし、今回はそれこそが“プロダクトデザインの肝”とも呼べる部分なので、本体の美しさを妨げないよう、ネジを露出させない接合方法はないか、とかなり粘らせてもらいました。そんな無茶な要求に対して、素晴らしい技術で、これまでに無い特殊な構造のパーツをゼロから考えて実現してくれました。(特許出願中)
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タープ用のポールには強度も求められますが、ただ丈夫なだけだと重くなって使い勝手が悪くなるので、ちょうど良いバランスを見出すためにポールの厚みに関しても試行錯誤しましたよね。
そうでしたね。一般的にタープポールは規格品の、決まった直径や肉厚のパイプから加工してつくるのですが、今回はその前の押出成形と呼ばれるトコロテンのようにパイプそのものを押し出してつくるところから始めています。かなり厚めの3mmから始めていくつかの厚みを試し、重量とのバランスで2mmに着地。削り出しで作られた、一切のガタつきと遊びがない接合パーツの精度の高さも相まって、立てた時の剛性感が普通のポールと比べて段違いです。どうしても手間もコストもかかるので、量産メーカーではやらないことなのですが。触れた瞬間にその精度の違いがわかるので、TARPtoTARPに来ることができる方は、ぜひ店頭で実物を手に取って触ってもらいたいですね。
TARP POLEのその先に何を考えていますか?
最近のアウトドアシーンを見ると、ギア市場の盛り上がりもあり、メーカーからどんどん新しい商品がリリースされ、買っては手放しの消費が繰り返されているような印象を受けています。今キャンプを楽しんでいる人たちが、モノの消費に辟易してカルチャーが終わらないよう、品質が良いものを選び、長く使い続けて欲しいですね。
北欧では、家具はメンテナンスを施しつつ、世代を超えて使い続けられます。良質な素材や高い耐久性、飽きのこない普遍的なデザインが求められるので、最初に買う時の価格は高いですが、そのぶん長く引き継いでいくことができる。プロダクトを作る側の視点としては、簡単に消費されず、世代を超えた時間に耐えることのできるような、“未来のヴィンテージ”となるものを作りたい。そんな思いから、TARP POLEはオール・アルミニウムで耐久性が高く、経年変化に耐えられる本物の質感があり、さらにどこかが壊れた場合もパーツ単位で交換可能なロングライフ設計になっているんですよ。
少し意外かもしれませんが、これまでTARPtoTARPではいわゆる“キャンプギア”の類は作ってこなかったんですよ。その意味ではこのプロジェクトは新しい挑戦とも言えますが、ここまでのプロダクトを作れたのは、これまで大切にしてきた“繋がり”の集大成なのかな、と感じています。このTARP POLEをタープだけでなく、テントやシェルターのポールとして使ってもらったりすることで、また新たな繋がりが生まれ、その繋がりがTARPtoTARPが次のフェーズへと進むキッカケとなってくれる。そんな予感すらさせてくれるぐらい、自信を持っておすすめできるプロダクトに仕上がっているので、ぜひたくさんの方に使ってもらえると嬉しいです。